今日はちょっと長いですよ。
日本の住宅の多くが木造である。そして昨今、地震に備えるために言われている耐震診断。この耐震診断、実はRC造やS造より木造のほうが複雑なのだ。
木造の耐震診断でもっともポピュラーなのが壁量計算だ。この壁量計算は床面積に対してX方向・Y方向それぞれどれだけの倍率(強さ)の壁があるか、バランスよく配置されているかを検討するためのものだ。木造住宅を建てる時、確認申請にこの壁量計算のシートを添付することから、行政的には壁量が足りているかどうかが基本的な指針となっているのが分かる。
しかしながら新築の場合はそれでもいいとして、既存建物の耐震診断の場合は壁量計算だけではとても耐震性能を推し量ることは出来ない。そこが木造の難しいところ。木造住宅はその名の通り、木で構造体が構成されている。この「木」は自然素材であり、当然時間とともに劣化するし、周辺環境の影響を大きく受ける。つまり湿気が多ければ腐りやすいし、白蟻が発生しやすくもなる。またRC造のように一体構造でもなく、S造のように部材の性能が安定しているものでもない。つまり基本的にもともと不安定な素材なのである。そのために建設時の材料管理が重要になってくるのだが、その話はまたにして、その不安定な素材である「木」を使用した木造住宅の耐震性能を推し量るためにはどうしたらいいのか。
私のスタジオでは前述の壁量計算は当然のこと、次のような検討項目を実施している。
・壁量計算(基本です)
・接合部調査(金物の有無、接合方法、壁の構成調査など)
・部材の健康調査(腐朽状況・白蟻の有無など)
・床下の環境調査(湿度・換気状況など)
・外部からの調査(外壁の割れ・雨漏りの有無など)
・常時微動測定(振動特性の把握)
・場合によっては地盤調査
などなど
基本的にはまず現場へ行き詳細調査を行う。当然床下・天井裏へバンバン潜る。埃だらけになろうともとにかく潜る。それによって現在の家の健康状態がわかる。また壁の仕様や接合部の仕様が分かるので壁量計算を行うとき単純な数字の計算ではなく、その状態によって何%減といったより詳細な計算が可能になる。常時微動測定は住宅の揺れ方を測定するのだが、これは住宅は地震時でなくても絶えず細かく揺れていて(風や車の振動、その他いろいろな要因で)、その振動特性を測定することで住宅の堅さ・重心などを把握することが出来る。地盤調査に関しては建物の耐震改修をしてもそれを支える地盤が不安定ではどうしようもないので、地盤の状態を確認をするためにスウェーデン式サウンディング試験を行っている。
つまり木造住宅の耐震性能は
・壁の量
・壁の仕様
・接合部の状態(接合方法、金物の有無)
・木材の状態(腐朽や虫害の有無)
・振動特性
・地盤の状態
など様々な要因を考慮して推測しなくてはならないものだということだ。
もちろんコレだけすべての調査を行うことは時間と費用がかかるし、やったからといって確実というわけではない。逆に壁量計算と床下・天井の調査だけでも十分な場合もある。だが、非常に簡素な方法で耐震診断を行い、安易な結果を住まい手に渡している業者も少なくないし、住まい手の方々の認識も不足している現状を考えると木造の耐震診断は簡単ではないし、現状の行政の指導もとても不足しているのだということを言わずにはいられない。
金物を付けただけで安全になるほど地震のエネルギーはやわではない。換気扇を床下につけただけで白蟻が来なくなるわけでもない。すべては地道な調査をしっかりやって複合的な要素を総合的に判断しなければいけないのだ。それをやっている業者がどれだけあるのか。もっと住まい手の安全を守るために責任をもってやっていただきたいと思う。
私は今、比較的大規模な地震が頻繁に起きているのを見ていると、そろそろ来るかな?と緊張感を持ち始めている(来る来るといって10年以上経ちますが)。そろそろ本気でヤバイ時期になっている。ひとりでも多くの方が耐震診断を受けられることを望んでいる。まずは業者ではなく、役所・専門家へ。